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2023年3月27日

“町内唯一SS”をM&Aして、1年超・経過 「それからどうなった」

※ こちらの記事は、株式会社月刊ガソリンスタンド社よりご提供いただいた記事となります。




前職は「ピット長」 異業種出身、SS経営へ


奈良県の南部に位置する、吉野郡下市町下市。町全体の人口は 4,784人、世帯数は 2,339世帯(取材時点)の、決して大きいとは言えない地域だ。


そんな町内で2021年、唯一あったSSの事業者が閉業を決めた。


資源エネルギー庁では「市町村内のSSが3カ所以下の自治体」を「SS過疎地」と定義している。3カ所どころか唯一のSSが無くなる事は、町の生活インフラの欠落を意味する。


そんな中、一人の事業者が「SSの継承」に名乗り出た。THC商店の原田達也代表取締役だ。


原田代表は35歳、前職ではアルミホイールやタイヤを取り扱う専門店「カーポートマルゼン」の「ピット長」を務めていた。




「このSSを、元々の事業者の方から『M&A』したんです。私はクルマ業界で、特にカスタムカーを手がける仕事に打ち込んでいましたが、『いつか自身で事業を』という気持ちを抱き続けていました。クルマのカスタムもSSも、大きく言えば、同じ自動車業界。決断しました」


「実は、事業主になるべく考えていた時、最初からSSをと決めていた訳ではありませんでした。しかし、異業種の人間が、この業界に入れるというのは、考えてみれば稀有な事。このSSの決算書を慎重に見て『いける』と確信しました。収益面は悪くなかった。


下市は小さな町ですが、逆に言えば『その町内の唯一SS』であるという事は、かけがえのない強みでもあると思い至った。考えに考えて、私はSS事業者になる決意をしたんです」という訳だ。


ただ無論、簡単な道ではなかった。燃料油の販売数量は、はっきり言って社会的に「右肩下がり」なのは明白だし、近未来を見れば「ガソリンの使われ方が、今後どうなっていくのか」という事も、頭をもたげる。


そして、同SSはいったんは閉鎖が決まっていた店であり、それは地元の住民や行政、法人客などにも告知されていた。




原田代表がSSの運営を譲受したのは、2021年7月の事。ギリギリのタイミングで原田代表が「手を挙げた」格好だから、事態は急転直下だったといえる。


「前のオーナーが心強かったです。町役場など、各所への挨拶に同行してくれて、しっかりと『顔つなぎ』をしてくれた。さらにスタッフ。前オーナー時代から勤務するスタッフ達が、皆残ってくれたんです。


長年勤めていたスタッフ達なので、この地域では当然、顔が広い。『顧客からの信頼』という無形の価値を、彼らのおかげで沢山引き継ぐ事ができました。フルサービス店ですからなおさら、それは大きな事でした」


さらに原田代表を慕って、前職時代の同僚がついてきてくれた。「整備士資格も持っている人間ですし、中古車を査定するスキルもある」という事で、強力な仲間となった。


そうして以前からのスタッフと新スタッフ、また原田代表とが「融合」して、このSSは生まれ変わり、運営譲受に至った。





「地元SS」を運営譲受 地道な挨拶を継続 ブランドの力も実感


取材時(2022年10月時点)で、運営譲受から1年3カ月が経った頃。原田代表にこれまでの経緯をうかがった。


「正直に言って、最初の数ケ月は苦しかったですよ。まずもって私は、乙四の資格を取る事からのスタートだった訳ですし。油の仕入れのやり方、売掛金の事、不慣れな事ばかりでしたから。


それでも年末頃から、なんとか軌道に乗ってきました。地域店なので燃料油の販売量は大きなボリュームではないですが、着実な需要がある。配送用のローリーも4台、新しく用意しました。私含めてSSの全員が乙四を持っていますから、工事現場やキャンプ場、そして冬場の、地元顧客への灯油配送と、こちらも確実な需要があります」


この地域では都市ガスがないため、各家庭に灯油タンクが設置されているケースがとても多いそうだ。


灯油の配達先で「住民の方が、野菜や果物を『持ってけ』と、くださる事もしばしばです。私自身、社長であろうが何であろうが『皆さんに顔を覚えて頂く』事を念頭に、積極的に配送に出かけています。そうした積み重ねが少しづつ、実を結んでいる事も感じています」




行政や地元企業にも精力的に「挨拶回り」を行い、新たな法人顧客も獲得しているとの事。


「『たった一つのSSを引き継いでくれてありがとう』なんて私に言ってくださる方もいる。その時は本当に嬉しかったです」と、笑みを見せる。


「あと、ブランドの力というのも感じています。『ENEOS』と掲げている事が、いかに大きな事なのか。やはり金看板ですから、信頼の源になる。異業種から来た人間ですから、そういう事はことさらに感じますね」





地域の高齢化も勘案し 太陽光事業も開始 将来の収益減少もヘッジする


しかし良い事ばかりではない。下市町に限った話ではないが、「高齢化」という波はこの地域にも訪れている。今現在に収益を確保できているからといって、待ちの商売を続けてしまえば、将来が「尻すぼみ」となってしまう。


そこで原田代表は「太陽光発電事業」にも乗り出す事を決めた。家庭用、産業用ともに、設計から施工まで一括して相談を受ける体制を構築した。


「SS事業は『THC商店株式会社』として、太陽光発電事業は『THC株式会社』として、別会社で行う事にしたんです。実は、私の弟も太陽光発電事業の会社をやっているんです。弟の会社とも連携して、家の屋根にソーラーパネルと蓄電池の設置を行っています。さらに、空いている土地を当社が買い取り、または借り受け、太陽光発電設備の設計・施工も行っています」


そして2022年2月、原田代表はTHC商店の事業として「不動産事業」も開始した。


「この地域でも、最近よくニュースにもなる『空き家問題』があるんです。そうした家の売買をできたらな、と思ったのがきっかけです。私は、SSも含めて、この下市に貢献できる企業になりたいと思っています。


カーライフ、さらにはライフをトータルで承っていきたい。もちろん企業ですから収益は欠かせませんが、それだけでは決してない。多角的に事業を展開する事は、SS収益の減少・可能性に対するヘッジ策でもありますが、『地域の人々の暮らし全般に関わる企業になりたい』という、理念なんです」





スキルを生かして油外・拡大 地域に骨を埋める覚悟で 展望


今後は、SSで車販、さらには前職のスキルも生かした「クルマのカスタマイズ」も積極的に行っていく考えだ。


「町内のSSで、クルマのドレスアップ・カスタマイズが本格的にできたら、素敵だと思いませんか。私は元々それが本職でしたから、腕やセンスはそこらの専門ショップには負けないつもりです。ついてきてくれたスタッフも、そのスキルがある。


そして、前職時代からつながっているお客様もいます。パーツ等のメーカーとも変わらず連携が取れる。今もちょうど一台、内装・外装全てのカスタムを受注して、SSに入庫しているんですよ。その様子を見たお客様が『おたく、そういうのもできるんだ?』なんて声をかけてくださったり」と相好を崩す。




「タイヤも拡販していきたいですね。特に冬場は、この地域は冬タイヤ必須な地域ですから、安定的な需要が見込める。SSで預かりサービスも行っています」と、前途を広く見据えている様子だ。


「社会的に、SSには災害時の砦としての機能を求められている事も承知しています。幸いこのSSは、前オーナーが地下タンクのFRPライニングも済ませていますし、計量機やLED照明といった設備は、運営譲受の時に一新しました。


私はこの地に根差す覚悟なんです。もしもの時に地域の助けになりたいし、皆で盛り上がれるような地域イベントも企画していきたい。この町の町長さんとも話をしているんですよ」


住民のみならず、行政からも、同社のSS運営譲受は歓迎を受けているようだ。


最後に「THC」のネーミングの由来を聞いてみた。


「『チーム・ハラダ・クリエイト』の頭文字です。一丸となって、下市の地で色々なサービスを作っていきたい。過疎地なんて言わせませんよ」と、明るい返答があった。





月刊ガソリン・スタンド 2022年 11月号

P.94 「◎大手タイヤ販売店勤めを経て、起業してSS経営者に!“町内唯一SS”をM&Aして、1年超・経過「それからどうなった」」より


【 掲載ガソリンスタンド 】

下市SS / THC商店(株)

(奈良県吉野郡下市町)


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